BABY'S Milton ミルトン
医学部を卒業して小児科医になったのとほぼ同時に、私の子育ては始まりました。どちらも初めてのことばかりで、小児科医といっても、まだ、その知識や体験は限りなくゼロに近く、同時進行する自らの子育てには役立てようがありません。また、子育て中だからといって、その日々の経験を診療場面に活かせるほどの蓄積もなく、むしろ仕事をしながら子育てをすることの困難さばかりが、毎日重くのしかかる生活でした。
新米の小児科医として働きながら、昼間はこどもたちを保育所に預けていたので、一緒にいられる時間も少なく、むしろほかのお母さんよりも子育てはヘタだったかもしれません。保育所のお迎えはいつも最後で、大急ぎで家に帰ってきて、夕ご飯を作っている間にもう、息子は眠ってしまい朝まで起きず、結局ご飯も食べさせてあげられなかった、などという情けないこともありました。
小児科医としても母親としても、何一つ満足にできないもどかしさ、自分の力のなさを思って、くやし涙に暮れる日もありました。
そんな、まるで綱渡りのような日々を送りながらも、経験を積むに従い、自分なりに小児科医としての視点も持てるようになり、また、病気のこどもたちとそのご家族とのかかわり合いの中で、私なりに子育てに対するスタンスもできあがっていきました。さらに自身の子育てをしながら小児科医としての目を養うこともできました。
そうして、小児科医として仕事をすることと二人の息子を育てることとは、いつしか私の内面で車の両輪のごとくに作用しあい、そのいずれもが、自分の人生にとってかけがえのないものになっていました。
この本は、小児科医である私から、子育てに奮闘しているお母さんたちご家族にあてて、10年にわたって送り続けた、いわば手紙を集めたものです。診察室の中から待合室で待っているお母さんたちへ向けて発せられた、子育て応援メッセージでもあります。
診察室の中で、患者さんご家族とお話しできる時間には限りがあります。病気の話だけではなくて、もっといろいろな話をしたいという気持ちになったり、目の前にすわる患者さんご家族に、かつての自分自身の子育て体験が重なり伝えたいことがあふれてくる、そんな思いにかられたりすることもあります。 こどもを育てるのは大変だけど、とてもすばらしいことであるし、今しか味わえない賞味期間限定の貴重な体験なのだということをわかってほしい、大体はそんなメッセージになっていたでしょうか。そのような思いを伝えたくて、毎月したためた小文を待合室に貼り出し、お読みいただいて、はや10年の月日が流れました。
子育てほど創造的な仕事はないけれど、小児科医の仕事もそれに負けないくらい、すばらしい仕事であると実感し、感謝する毎日です。
岩田 裕子
岩田裕子先生1977年、千葉大学医学部卒業。
千葉県内の病院で小児科勤務医として研鑽したのち、1994年、千葉市にて小児科クリニックを開業。
2004年~2008年 千葉市小児科医会会長
2008年 千葉市医師会 理事
