妊娠するとプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が活発になります。その影響で、妊娠初期は体温が高くなり、眠気を覚えるプレママは多いようです。それが妊娠中期になるとだんだん慣れて眠気を感じなくなるうえに、大きくなったお腹が膀胱を圧迫することで起こる「頻尿」や、運動不足やミネラル不足による「こむら返り(※)」などで、さらに眠りが浅くなったりします。
また、出産に対する不安やストレス、腰痛、お腹の赤ちゃんが動くなどで目が覚めることもあるでしょう。ただ、出産後になると今度は3時間おきの授乳で眠れなくなりますので、上手に睡眠をとりたいところ。その予行練習と考えると、不眠の悩みは軽減されるかもしれませんね。
※こむら返り……腓(こむら)=ふくらはぎにおこる筋けいれんのこと。
“足がつる”ともいわれる。
睡眠は、浅い眠りのレム睡眠と深い眠りのノンレム睡眠の2種類があります。ノンレム睡眠が90分ほど続いたらレム睡眠が10~20分ほどあり、それを繰り返しているのです。この睡眠サイクルを上手に生かし、浅い眠りの時に起きるようにすると、たとえ睡眠時間が短くても、脳と体の疲れが取れるようですね。
また妊娠後期になるにつれ、だんだん赤ちゃんにも寝たり起きたりのリズムができてきます。そのリズムに合わせて、5分、10分と小刻みな睡眠を取るようにしましょう。
寝るギリギリまでスマートフォンやパソコンを見てブルーライトを浴びていると、脳は休まりません。特に出産に対する不安から夜にあれこれ検索する方がいますが、調べるほどに神経がたかぶり、ますます眠れないことに。就寝1時間前からは電子機器に触らず、部屋の灯りも間接照明などで暗くして、音楽を流したり、アロマを焚いたり、好きな本を読んだりしてリラックスするよう心がけましょう。
軽いストレッチや、38〜40℃のぬるめのお風呂に入るのもいいですね。いずれも就寝1時間~1時間半前が目安。一度体温が上がって血流がよくなったあと、しばらくすると体温が下がりますが、そのとき眠くなります。朝起きたとき、しっかり太陽の光を浴びて、体内時間を整えることも大切です。
お腹がすいても眠れないものです。就寝1時間ほど前に、ホットミルクを飲むとよく眠れるといわれています。牛乳には、睡眠ホルモン「メラトニン」の元になるセロトニンの原料「トリプトファン」が含まれているためです。
トリプトファンは肉や魚、穀物にも含まれますが、就寝前の軽食ならナッツ類やアメリカンチェリーなどがよいでしょう。妊婦さん向けのハーブティー、麦茶、甜茶など、カフェインの入っていない温かい飲み物も適しています。
お腹が大きくなると、仰向けで寝るのがむずかしくなります。腰痛のほか、一番太い静脈が圧迫されて血液が心臓に戻りにくく、このため心臓はがんばって血液を送り出そうとして心拍数が上がり、ドキドキして目が覚めることもあるようです。同時に赤ちゃんに負担がかかる場合もあります。
プレママにも赤ちゃんにもラクなオススメの姿勢は、抱き枕を抱えるように横向きに寝るシムスの体位。左側を下にすると、太い静脈を圧迫せず血流がスムーズといわれています。ただ、寝ている間は体がラクになるように自然に寝返りをしているものですから、あまり気にしなくてもかまいません。
抱き枕やアロマのサシェ、アイマスクなど眠りやすいグッズがあれば取り入れるのもいいでしょう。妊婦さんは体温が高いようでいて、手足の末梢は冷えがちですから、ゆたんぽなど温めるものも、眠りを誘うのに役立ちます。
ただ、眠れなくてもお腹の赤ちゃんの成長には影響ありませんから、妊娠中の自然なこと、出産後のお世話の準備と気軽に捉えて、あまりに眠れないときは起きてしまうのも手です。
その代わり、昼間、小刻みに休むよう心がけてください。横になるだけでもいいです。また出産の不安でどうしても眠れない、という場合はひとりで抱え込まず、主治医に相談してください。
竹内正人 先生
学生時代より世界諸国を放浪。Accept & Start -「喪失」と「物語り」- をテーマに、地域・国、医療の枠をこえ、さまざまな取り組みを展開している産科医。
1987年日本医科大学卒業。米国ロマリンダ大学(周産期生物学)、日本医科大学大学院(産婦人科学・免疫学)、葛飾赤十字産院産科部長(1994年~2005年)を経て、東峯婦人クリニック副院長。JICA(国際協力機構)母子保健専門家として、ベトナム、アルメニア、ニカラグア、パレスチナ、マダガスカル、カンボジア、ドミニカの母子医療、思春期リプロダクティブヘルスにも携わってきた。また、メディア、書籍等を通して現場からの声を広く発信している。
次回のミルトンタイムは、「妊娠中の入浴」にまつわる話題をお届けします。
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